カテゴリー: 映画

同じ映画好きでも鑑賞習慣が大きく異なる日本人と米国人

あまり知られていないことだが、興行収入でみる日本の映画市場の規模は、米国、中国、インドに次ぐ世界4番目である。米国はハリウッドの国であり、中国・インドは人口12億人以上の大国であることを踏まえると、日本人は相当な映画好きであることが分かる。

もっとも、同じ映画好きの米国人と日本人でも、映画鑑賞の習慣は面白いほど異なる。

たとえば映画を観に行く時間帯。日本では週末の昼間に映画を鑑賞するのが普通だ。映画館は午前中から混雑しており、ピークは15時頃だろうか。僕もこの習慣に合わせて、近年は土曜か日曜の午後に映画を観た後、その足で夕食に行き映画の感想を語り合うことが多い。

お盆休み中のしょーもない映画3本連チャン鑑賞という企画

お盆休みの間、僕は映画館で映画を3本観た。一日に、である。

なぜ3本立て続けに観ることになったかと言うと、その前の週に妹が「この夏はたくさん観たい映画があるねー」と言い、僕が「そうだねー」と同調し、「なら2本いっぺんに観る?」と妹が聞いてきたので、「どうせ2本観るなら3本観ようっか」と僕から提案したからなのだ。

「私も映画の3本立てをしたいかも」と思っている読者にアドバイスがある。これをするなら、「駄作の映画でも楽しく観れる」くらいの映画好きであることが望ましい。過去に僕は、群馬の高崎から神奈川の小田原までを湘南新宿ラインで制覇するというしょーもない企画を思いつき実行に移したことがあるが、鉄道にも電車にもなーんの興味を持たない僕にとってそれはただの苦痛に終わった。映画に興味がない人にとって、映画3本の連チャンは同じく苦痛になるだろう。

「風立ちぬ」は宮崎駿の稀に見る失敗作

3.5/10

宮崎駿監督の最新アニメ作「風立ちぬ」(2013年)は、零戦設計者として有名である堀越二郎の半生が主題。子供の頃パイロットになることが夢だった堀越は、近視だったためその夢を叶えることは不可能であることを悟り、飛行機設計者という違う方法で飛行機の世界と携わっていく道を選ぶ。そのため学問に励み、その後東京の大学で勉強する事になる。

大学入学のため汽車に乗り東京に向かう途中、関東大震災が起こる。脱線した汽車により怪我を負ったある少女の女中を担ぎ、少女の家まで付き添うが、少女の名前は聞かず、そして彼も名前を残さず大学へと向かう。

その後大学を卒業した堀越は、飛行機製造会社に就職し、名古屋に配属される。優秀な設計者として迎えられた彼だが、彼が最初に設計した飛行機は空中分解してしまう。上司により欧米の発展した技術を学ぶよう薦められた彼は、同僚とともに高度な飛行機技術を学びに外国へ送られる。こうして技術を磨いた堀越は日本に戻り次第新しい戦闘機の設計を任せられるが、新しく設計した飛行機も試験飛行で墜落してしまう。

またもや失敗してしまった堀越は、長期休暇を貰い軽井沢へと向かう。そこで何年も前の大震災の際に助けた少女、菜穂子と再会し恋に落ちるものの、菜穂子は結核を患っていた。菜穂子とは限られた時間しかのこされていない中、堀越は戦闘機の設計成功のために執念を燃やすようになる。

宮崎駿は「風立ちぬ」をとおして、多分、結核に患われていた妻に支えられた偉大な飛行機設計士の物語を語ろうとしたのであろう。「多分」と付け加えたのは前半では二郎は少年からの夢を追って飛行機の設計士になり、上司や同僚や囲まれて成長していくのに対し、後半からは突如として菜穂子との関係のみがクローズアップされるからだ。このように中盤で、堀越と飛行機中心の話から堀越と菜穂子中心の話へと大きな方向転換を行ない、軌道修正できない所が「風立ちぬ」の最大の欠点である。

「桐島、部活やめるってよ」はいまいち物足りない

6/10

僕の友達に、米国作家であるアプトン・シンクレアが書いた「ジャングル」という本を基に脚本を書いた者がいる。原作は英語で300ページという長さであるため読んだ事がないのものの、以前にもこの友人の脚本を読んだ事がある僕は、最新の作品の感想を聞かれた。「前作と比べると大分上達したな」とそれなりに誉めたのだが、「多少登場人物が多すぎる」と付け加えたら、「これでもだいぶ原作から削ったんだよ」と苦笑いしながら返された。原作と比べて映画版はいつも劣るな、と考えていた僕に、本はそう簡単に映画化できない事を僕の友人はこの時教えてくれた。「桐島、部活やめるってよ」を観ながら改めてその事実を思い出した。

「桐島」は、ある高校のバレー部のキャプテンである桐島が部活を辞めた事によって始まる。原作と同様、映画に桐島は現れない。代わりに、桐島の退部がもたらした波紋をバレー部の補欠の風助(太賀)、プレスバンド部の佐和島亜矢(大後寿々花)、映画部の前田涼也(神木隆之介)、ソフト部の宮部実果(清水くるみ)、野球部の幽霊部員である菊池宏樹(東出昌大)の5人を中心に語る、というのが設定となっている。

最新の「海猿」は単純さがいい

8.5/10

くさい台詞を吐く主人公中心のありふれた感動物語が大金をつぎ込んだ大規模なアクションを通じて語られる。そんな何にも考えないで楽しめる単純な映画を、特に夏には観たくなる。「海猿」シリーズの4作目となる「BRAVE HEARTS 海猿」は、2作目と同様に、そんな欲求を満たしてくれる映画である。

構想はいたって簡単。海上保安官である仙崎大輔 (伊藤英明)と以前からバディーである吉岡哲也(佐藤隆太)は、通常の海上保安官が出動できない現場を任せられる特殊救難隊に所属する。彼らの直属上司は嶋一彦 (伊原剛志)。命を救うことを何より優先し、どんな場合でも奇跡を信じて諦めない心を持っている仙崎は、現場では冷静な判断力が最も重要であると考える嶋とは意見が合わない。そんなある日、吉岡がプロポーズして断られた元彼女である矢部美香(仲里依紗)がキャビンアシスタントとして乗っている羽田行きの飛行機がエンジンと機体に大幅なダメージを受けるという危機に晒されてしまう。海上保安庁警備救難部救難課長である下川嵓(時任三郎)が危機管理のため羽田空港に駆けつけるが、状況を鑑みて飛行機の羽田への着陸は不可能と判断。乗客と従業員全員を救う方法は東京湾への着水方法しかないと決断する。薄暗くなる中での着水、そして着水後の即効の救出には海上保安が欠かせなくなり、仙崎、嶋、そして矢部が飛行機に乗っていることを知っている吉岡が出動する。

「海猿」は単純な映画だが、このような映画の製作は簡単なようで意外と難しい。単純な映画とはいえども構想は肝心で、関心を削ぐようなストーリーはいくらアクションシーンが良くても、観客は冷めてしまう。「海猿」はそこら辺のコツをしっかりつかんでいる。この映画の空と海での危機を中心とした構想はスケールが大きい。飛行機に不具合が起こった時点から映画はテンポが上がり、ハラハラする場面が中断されることなく続く。海で活動する海上保安官の話なのに空を飛ぶ飛行機を中心とする設定は如何なものかと観る前は半信半疑だったのだが、空と海の場面がバランスよく組み合わせられており、全く違和感を感じない。前作「THE LAST MESSAGE 海猿」の石油プラットフォームでの設定は今ひとつしっくりこなかったのだが、「BRAVE HEARTS 海猿」では空という海とは全く関係の無い場面を導入したことで反対に成果を出している。
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